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父権主義と歯科医療



(GHにおける歯科医療の実践と理念)



 GHを開設して2年目、当歯科医院から歯科衛生士を派遣して入所者の口腔管理を実践してみた。

 歯科衛生士が入所者さんに話しかけ、口腔管理の話をしてみるが、皆一様に拒絶される。「先生、何とか話をするところまではいくのですが、皆さん口を開いてくれません」と衛生士が告げる。「今回のような、日常生活への口腔管理は初めてだから、焦らず入居者さん達と友達になるところから始めてはどうだろう」と数ヶ月努力させたが、うまくいかなかった。

 また、自分自身も、歯科医師としてGHに赴き、口腔管理を訴えてみたが、やはり上手くいかない。

 通常の歯科医療では、治療を希望する人しか受診されないため、希望しない人に口腔管理を実践することの意味を、改めて考えさせられた。

 医療とは求めに応じて初めて成り立つものである。患者の同意もしくは同等の状況(医療を提供しないと、その人が死亡するなどの特殊な状況ーーーそれさえも「尊厳死」という問題を含む)で行われ、同意が得られなければ、傷害行為に該当する。つまり、医師は、求められれば医療を提供する義務が医師法で定められているが、医師の判断のみを理由として、一方的に医療を提供(強制?)できない。(精神科の処置入院などは例外である)

 よく聞く話で、「私の言うことを聞かなければ、責任持てませんよ」という医師の常套文句は、いったいどんな責任を取るつもりなのか?言う事を聞かない患者が、医療を求めても拒絶するということであれば、明らかに医師法にそむくことになる。



 ここで、歯科医療の特性を考えてみる。

 第一に、治療の多様性として、治療時期と治療方法が千差万別であること。

  治療時期・・・本人が望んだ時、それが数個の虫歯だけの時もあれば、ほとんど歯牙を喪失し、咬合が崩壊したときもある。

  治療方法・・・最低限度、痛みを止めるだけの治療にとどめるか、口腔機能をどの歯科医師が診ても「治療の必要なし」といわれるまで治療するか。


 第二に、費用の差が、保険治療と自費治療(保険外治療)で大きく異なること。

  たとえば、歯が一本欠けているケースでも、保険ならすべて含めてBr(ブリッジ)で2万円前後。義歯なら保険で数千円、自費の義歯なら3万円〜20万円前後。  そしてインプラントなら20万〜30万円になる。




 以上を踏まえると、希望していない(歯科医療を求めていない)人たちの生活の場に押しかけ、医療を提供しようというのは、民家を個別に訪問して歯科医療を押し売りして歩くのと同じになってしまう。


 「老後は自己決定と自律」を目標に掲げるGHで、歯科医療の押し売りはおかしな話になってしまう。当然、当院は母体医療機関ということになるので、本人が希望すれば何時でも診療に応じる。しかし父権主義で、「あなたは歯科医療と口腔管理が必要だ!」と押し付けることはできない。



 現在の状況は、本人が希望するか、職員から見て介入が必要であれば、往診と歯科医院への受診で対応している。ただ、当施設の職員も含めて「社長」として知り合った人間に、いくら歯科医師だとしても口の中を見せる気には、なかなかならないものらしい。f(^^;) ポリポリ