( テーマ1 )
科学の進歩と人間の能力について
( 考 察 )
最近、電車や飛行機において、相次いで事故や人為的ミスによる危険な状況が発生しています。
医療事故も増加しています。医療事故に関しては公表されるようになったために増えたようにみえるだけだという意見もありますが、私は違うと思います。手術での患者の取り違え、手術すべき臓器の間違い、左右の間違い、中心静脈栄養カテーテルで大静脈を突き破る、抗がん剤の量を間違える、内視鏡手術の出血に対処できないなどが最近ありましたが、私が勤務した各病院では、幸いに、このようなひどいミスは経験したことも、見たことも、聞いたこともありませんでした。
これらの医師や、電車の運転手、飛行機の整備士、管制官たちは、おそらく一生懸命にやっているのだろうと思います。それにもかかわらず、大きなミスが発生してしまう時代。以前と比べて、何かが違うように思えてなりません。それは何故でしょうか。
怖いのは、科学技術の進歩と人間の能力の間に、徐々にズレが生じているのではないかという疑念です。
科学技術は時代とともに進歩します。しかし、人間の寿命はたかが80年ほどで、すぐに、新しい生命に生まれ変わります。その時代の天才たちの置き土産が科学技術ですが、現在の日本人にとって、それは果てしなく高度な、扱うのが難しい技術となりつつあるのではないのでしょうか? 時代とともに、人間が賢くなってゆく時代ならともかく、我が国の現状はどうなのでしょうか?
最近のわが国の教育省ご自慢の、いわゆるゆとり教育とやらは、国民全体が持つ必要のある肝腎の基礎知識を軽視していますから、今後はさらに様々なミスが繰り返される可能性があります。例えば、天気が読めないためテレビやラジオの天気予報に全面的依存で、船が転覆したりヘリコプターが墜落したり、遠心力を知らないため、カーブで思いっきりブレーキを踏んだりアクセルをふかしたり、最近よくトラックや電車が横転しています。
私はあちこちの病院で手術を見たり、経験してきましたが、小さなミスであってもミスする医師は毎度同じで、共通するのは、怖れを知らない性格の人です。ですから時には周りから見て非常に手術が上手に見えることがあります。しかし、成功率で比べたら、慎重な人よりはるかに劣ります。
今の我々が最も重視しなければならないのは、その技術に至るまでに先人たちが経験した失敗の数々を覚えてゆくことであり、常に怖れの気持ちを持って、先人の技術に触れることでありましょう。