東征の帰路、尾張のミヤスヒメと契りを結んだヤマトタケルは、草薙剣をヒメの許に置き去りにして、
「荒ぶる神」を討つため伊吹山に向かった。
しかし、剣を手放したことによって彼の神性は失われ、伊吹の山の神に惨敗を喫してしまう。
それのみならず戦傷と疲労のためヤマトタケルは 伊吹山で昏睡状態に陥ってしまった。
大和への帰郷を目前として、伊吹山でたおれたヤマトタケルだが、どうにか最後の力をふりしぼり、
伊吹山をやっとの思いで下る。
ヤマトタケルを撃退した伊吹の山神は、「古事記」では大きな白い猪、「日本書紀」では大蛇となっているが,
いずれにしろ彼の敗退は、自らの力の過信にあった。
叔母ヤマトヒメとの誓いを尾張の地で破り、彼は霊力をすでに無くしていたのだった。
下山したヤマトタケルは麓に湧く泉の水を口にして、また水に浸して生気をとりもどし大和へ向かうべく道を急いだ。
しかしその先はといえば、鈴鹿の厳しい山々だった。
北部鈴鹿の山々を越えたものの勇武の力衰え、杖を頼りに歩を進めるヤマトタケル。「わが足,三重のまがりなす」
というほどのそれは苦難の道だった。
東征から遥かに帰路をとって、大和へはもう一歩。しかし能褒(煩)野の地に至ってついに英雄も床に臥す。
倭は国のまほろぼ
たたなづく 青垣
山こもれる 倭しうるわし
ヤマトタケルは望郷の念からそう詠んだが、病は日々に重くなり,やがて能褒(煩)野に没した。
その地に葬られたとき、ヤマトタケルの魂は天翔ける白鳥となって大和へ向かい飛び立ったという。
出典 : 「ヤマトタケルの最後」 みささぎの郷 里山づくりの会 ホームページ