Japanese English
50 years with motorcycles.


オートバイ。雨に濡れても風に吹かれても、我が最良の相棒。
エンジンの音も振動も排気ガスのかおりも素敵な乗り物です。
大きなヤツはもちろん、小さなヤツも、魅力がいっぱいです。
夏の熱気の中では、アスファルトの照り返しにあえぎながら。
切り裂くような冬の寒さの中は、マフラーで手を温めながら。
風を切りながら走るオートバイの魅力は、語り尽くせません。

 
 


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2025 アメリカ (シカゴ・ラシュモア山・デビルズタワー・ウォール)
     Harley Davidson Street Glide 1900
      

 米国製大型オートバイに跨った二人の和製老人は、ラピッドシティ(Rapidcity 大急ぎ街)のラシュモア山(rushmore もっと急げ山)で早朝の熱い熱いコーヒーを味わい、クレイジーホース(Crazy horse 気狂い馬)でアメリカンインディアンの魂に触れ、デビルスタワー(Davils Tower 悪魔の塔)で沈む夕日に美酒のグラスを傾ける。いずれの米国の地名も、私達二人は大好き。ダイナマイトを駆使して花崗岩の山に彫られた巨大な大統領やインディアンが私たちを大きく揺さぶり、平原の中に突き出た荘厳なデビルスタワーの姿が、たたずむ程に私たちを飲み込む。
  大きなものさしとはいかなるものかを目の当たりにすると、嬉しくて胸がいっぱいになる。

 

  ケアンズからタウンズ・ヴィレへと山岳道路を駆け抜ける、ハーレーダビッドソン・ロードグライド。大地を一面に覆い尽くした5月の砂糖きび、収穫を前にして青空に向かって風を一生懸命にあおぎ送っている姿が頼もしく大きい。実に袋がかけられたバナナたち、広い畑が圧巻の光景が続く。私たちを、追い越し、すれ違い、前と後ろを誇らしげに走る、巨大な4輪駆動車。この大陸ではさほど大きく目に映らない。小さなアジアの島国からやってきた夫婦の乗るハーレーも、いつもは充分デカいはずなのに、今は遠慮がち。
  ここはオーストラリア。多くの自動車が後ろにトレーラーを引き、制限速度を守りおおらかに走るさまは、自動車過密地帯ジャパンからやって来た私たちにとって、ユートピアに映る。突然道端に現れた野生のヒクイ鳥、もう一度現れておくれ!

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 2025 オーストラリア・ケアンズ 
Harley Davidson Road Glide 1900

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2025 韓国 (済州島・釜山・大邱・ソウル)
     Harley Davidson Street Bob 1800
      

 3月のJeju(済州)はもう春。縦横に整備された高品質の道路を、私たちのハーレーダビッドソン・ストリートボブが軽快に進む。オートバイに乗るペアルックの私たちに、すべての人たちが温かい。さまざまな場所で笑顔と大声の韓国語で話しかけられ、ドギマギ。国の防衛上の理由から Google map は制限だらけで役に立たない。使ったことのないナビアプリに、アタフタ。オートバイは高速道路は通行禁止なので道の進入にはハングルの看板に気をつかう。トイレのないコンビニにもソワソワ。
 ここは韓国。釜山も大邱もソウルも電気で動く自動車が幅をきかせていて、街の外も内もKIAやLGの文字が溢れる。ただ中国のBYDや旅行者の Insta360も幅をきかせはじめている。SONYのでかいハンディカムで撮影しているのは僕だけ。でも日本製の長持ちは誇らしい。昭和33年製の日本製の人間も、長持ちしてがんばらなきゃ。

 

  クアラルンプールを出て間もなく、濃い雲の塊が低く激しく前方から迫ってきた。私たちの周りをすっ飛んで行く数多くの単車たちが一斉にざわめき始め、高速道路に2km毎に設置された単車専用雨宿り場に逃げ込む。何事が始まるのか?
 やがてそれはやって来た。前も見えない程のすさまじい雨。cats and dogs が大暴れ。湿気フル100%の34℃で一気に冷凍庫の扉を開けた状態といえば最適か。これはたまらない・・・というよりも、ここまでやられたら仕方ない。むしろ気持ちいい。
 ここはマレー半島。車の量は多くとも、クラクションの音がない、我先にと車の舳先を割り込ませるせめぎ合いもない。さらに二輪車は高速道路は料金所に抜け道があって無料。オートバイで走る朝夕の涼しい空気とオレンジ色の景色は絶品。さあ、こんな素敵な街、大好きなオートバイで走らなきゃ!

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 2025 マレーシア 
YAMAHA X-MAX 250

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2024 スペイン (バルセロナ・モン セラート)
     Brixton 500
      

 スペイン・バルセロナから山岳地帯を駆けあがれば、眼前に悠然と姿を現すモンセラートの雄大な渓谷。日本では経験したことのないような急勾配のケーブルカーで、248mの高度差を一気に登る。歩くことは苦手なはずの私たちが、素敵な景色に吸い込まれるように歩く。修道院に隣接する宿でワインを片手に星空を見上げ、時折鳴り響く教会の鐘の音を聞けば、いやがおうでも感動が体中を襲う。パエリアだって美味しい。
 朝は静かなスペイン。観光客で満ちているはずのバルセロナも、朝8時にオートバイで進む街は落ち着いて余裕に満ちたヨーロッパ。もの売りがひしめく奇抜な建物も、公園を彩る陽気で自由な発想のモニュメントも、オートバイから見える貴いガウディ。

 

  オートバイと共にフェリーボートに乗るのは、いつもワクワクとドキドキ。さらに行き先が佐渡ヶ島となれば、むねは「トキトキ」。
 籠から解き放たれた鳥のように、オートバイの群れがいつものようにフェリーから走り出す。私たちが日頃見慣れない新潟ナンバーの車たちが新鮮。「佐渡ヶ島」ナンバーなんてのもあれば、さらに親しみが湧くだろうなぁ。
 佐渡の最北端、二つ亀島から北西の海岸通り、目まぐるしく眼前に現れる素敵な景色に、我ら二人の乗員のテンションは上がりっぱなし。カーブをぬけ海が見えるたびにインターコムで伝え合う感嘆の声「おお〜」。見えては隠れ目に飛び込む海の波の文様が美しい。
 この島を支える全てが優しい。運転、言葉、表情、宿に登場する鬼太鼓、佐渡おけさの旋律までも。人々の心の余裕と金山の歴史をこれほどに深く楽しめるのは、佐渡の風が私たちのオートバイを後押ししてくれているから。

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 2024 佐渡ヶ島、富岡製糸場 
HONDA VTX 1800

 マドリッドから南へ150km、Campo de Criptana(カンポ デ クリプターナ)を行く。40度の天気予報は正しくて、オートバイの二人の日本人を乾いた熱風が炙りにかかる。ヘルメットのシールドを閉じないと目が乾く乾く。赤い大地にまばらに植えられたオリーブの木も、必死に乾燥に耐えているのがよくわかる。日本の水量豊富な水田地帯と対極をなす景色である。
 BMW F800R のエンジンが軽快に回る。カウルがないので高速道路はつらいが、丘陵をぬける一般道は心地よい、気持ちよい、爽快感満点。スペインの空気をこれほどに全身で楽しむことができるのは、私たちが大好きなオートバイで旅をしているから。

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 2024 スペイン(コンスエグラ、カンポ デ クリプターナ) 
BMW F800R

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2024 台湾 (高雄・日月潭・台中・九份・台北)
     KYMCO GP125
      

 高雄(カオシュン)をバイクで行く。大きなオートバイじゃないけどへっちゃらさ。「機関」と書かれたバイク専用のレーン、単車の存在を尊重してくれる自動車の運転手たち。いずれも台湾の人たちがバイクを大切に考えていることがよく分かる。だって台湾の人たちは自分も自分の大切な家族も、みんなバイクで走るから。だから女性やお年寄りでも安心してバイクで走ることができる。操縦も上手。おばあちゃんだって、リーンウィズで軽快なスピードでカーブをぬけていく。可憐な女性のスクーターの足元に大人しく鎮座したワンちゃんが憎らしい。手入れされた綺麗なバイクが素敵。
 ここは台湾。バイクが活き活きとその市民権を得ている素敵な国。日月潭、台中、九份、野柳、台北。どこの街でも、人々が優しい。見知らぬおばあちゃんが日本語を話しながら道をいっしょに探してくれる。列車に乗り込む人たちが順番を守って列にならぶ。走っちゃいけない自動車専用道に、年老いた日本人夫婦のバイクが迷い込んだって、笑顔で許してくれる。こんな素敵な人たちの街をバイクで走らないとするなら、もったいない。

 

 エジプト・ルクソールの街、イスラム装束の男たちがバイクで行く。ヒゲの濃い男たちの3人乗りは迫力満点。女性ライダーがいないのが淋しい。バイクの楽しさは男女同じだよ。 古い日本製バイクに酷似した中国製が街中に溢れる。150ccのゴールドウイングなんて名前のバイクも走っている。後席のステップは3・4人乗りもOKの立派なやつ。ステッカーの漢字が逆さまに貼ってあるのがにくい。
 よし僕らも走るぞ!おっとこのオートバイ、クラッチレバーが半分折れて、なくなってるぞ。うわ、前ブレーキが故障してるよ。「大丈夫、後ろブレーキがあるから」と販売業者。ヘルメット着用率は限りなくゼロ、バックミラーも装着率ゼロ。ライトなしで走るバイク群、夜後から追い越されるのが恐ろしい。我らの乗るタクシーにドカンとバスが追突、運転手たちの大声の喧嘩が始まった。
 ここはエジプト。車はとりあえず右側を走るがそれ以外はかなり無法地帯。現金をよこせと要求する輩があらゆる場面で登場する夕日の素敵なこの街、バイクを楽しむ余裕まで到達するのは、至難の業。

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 2024 エジプト(カイロ、ルクソール) 
豪江 Haojiang 150

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2024 フィリピン (マニラ・セブ)
       HONDA ADV150      

 マニラの交差点、赤い信号機に停止する。車の前方に割って入ったオートバイの数が、あっという間に10台ほどになった。信号機の傍らには青に変わるまでのカウントダウンが大きく表示されている。おお、さらに割り込むオートバイの数が増えた。10秒前、まさにモトクロスのスタートはこんな状況か。いや、オートバイの多くは二人乗り、否、3人4人子供を含めば5人乗りもスタートラインに並ぶ。3、2、1・・・ 一斉にエンジンが唸る。交差点からオートバイが散らされたように走りだす。排気量が150cc程の優しい性能のオートバイ、その中で漂って走るぶんには、外から見るほど壮絶な感じはしない。むしろ、道の真ん中で幾重にも重なって止まっているジープニーと、平然とそれに乗り降りしているお客さんにぶつからないように走るほうに気を使う。信号のない交差点など遠慮したら最後、正面衝突かという勢いで反対車線の車がなだれ込む。
 ここはフィリピン、砂ぼこりと排気ガスにむせながら町の中を走ることがとてつもなく楽しい。オートバイは、こうでなくちゃ。

 

 ヘアピンカーブが交互に無数に重なった道、大量の大型オートバイが高速でコーナーになだれ込む。それはあたかも砂時計のくびれに砂が落ち込んでいくように。そしてそのオートバイの隙間を狙って自転車がはさまり込みながら流れ込む。屋根のないカッコいい車達だって負けちゃいない。人ごととして見ている分には実に美しい。ただ、自分もその中に身を置くとなれば別。
 おお、その動きをかき分けて逆方向に同じようにオートバイと自転車と車がなだれ込んでくる。おいおい、ヘアピンのカーブで、反対側の車線にそんなにハミ出しちゃ危ない‥‥けどはみ出さなきゃ回れない。さらに時折デカいバスまでカーブをさえぎる。
 ここはイタリアのステルビオ峠、夏しか開かれないこの大切なレーシングコース、参加できるのは、ゆっくり走ることを知らない頭のボルトがはずれた無謀な輩だけ。私を含めて。

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 2023 ドイツ~イタリア(ステルヴィオ峠、ドロミテ渓谷) 
HONDA Gold Wing 1800

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2023 西日本縦断
        HONDA VTX 1800      

 訪れる多くの場所で、オートバイに乗る私たち二人の老夫婦はうらやましいと声をかけられ、大変ですねと感心され、危ないから気をつけてと心配される。そう、オートバイは羨ましく感心され、ケガする心配の大きいものである。
 なんでこんなモノで旅をするのか。暑いし寒いし、雨に濡れてむき身で危ない。それでもこいつで行く旅路は全てが異なる。風が雨が、冷たい空気が、そしてガラス越しでない目の前の海が迫り来る山々が、私たちが生きていることを、強烈に知らしめてくる。松の優雅な香りに満ちた唐津。カルストの固く白い香りの風が遊びまわる天狗高原。店先を賑わす柑橘類の甘酸っぱい香り満杯の八幡浜。呼子大橋の強風に緊張し門司港の凄まじい雨に翻弄する。
 なんでこんなもので旅をするのか。こたえは簡単、明日から私たちを待つ日々が尊いものであることをもう一度確かめたいから。オートバイに乗って。

 

 トルコ・イスタンブール。モスクからの急な坂道をオートバイで下る。様々な車の警笛と、ヒトの大声で満ちた町並みが続く。オレンジ色の夕日に染まるモスクも、定まった時刻に競い合うようにあちらからこちらから鳴り響く大きな祈りの音声も、この街になくてはならない大切な名産品。強い視線と共に受ける深い笑みも、ガソリンがなくて困っている私たちをとことん助けてくれようとする言葉も、トルコならではの幸せ。 岸の両側にアジアとヨーロッパが存在し、身動きできないほどの車とバスの間をバイクが縦横に抜ける。どこから出てきたのか人が途絶えない。信号無視?一方通行?何のことだ?自分には用があるのだから、後の渋滞など構うものか、邪魔ならバックさせてよけていけ。我先にと車の先端を流れに差し込まねば、進めない。分け入らなければ、向こう側に渡れない。もちろんクラクション・ブーイングなんて気にしてられない。
 ここはイスタンブール、大きな赤いトルコの旗があらゆる場所になびく街。ちょっと怖くたって、こんな愉快な街を走らないという手はない。オートバイで。

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 2023 トルコ Turkey 
HONDA NC750

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2023 ニュージーランド
       Harley Davidson Street Glide       

 ニュージーランド、オークランドから50km東。ガードレールのない何キロも続く曲がりくねった海岸線の道路。視界をさえぎるもののない自然と一体化した道路から見下ろす際立つ景色が続く。砂の浮いたようなアスファルトが二輪で走るには随分気になる。アップダウンと大きく傾斜のついた決して広くないカーブを、車たちは時速90キロを越える速さでみんな駆け抜けていく。傾くオートバイからは断崖の下がよく見える。
 オークランドの東に位置するコロマンデロまでの道のりは、空と海と断崖と無造作に生える松と赤い土、そして広大な草原で牧草を食む羊と牛で大賑わい。ここは真冬の日本から飛び込んだ真夏のニュージーランド。道端で停まって水筒の水を飲んでいる東洋人の夫婦に、単車が故障したのかと声をかけてくれる若い男性。オートバイに乗ってこの自然の風に吹かれれば、優しい心を育むものが何であるか、よくわかる。

 

 何もないと歌にあった襟裳岬。なるほど高木はないし人の気配もあまりない。ただ、今ここにある穏やかな空気は、厳しい冬と冬の間のつかの間の夏の静けさであろうことは、あらゆる場所から透けて見える。海に浸かって漁師たちが昆布をとっている。男も女も懸命。波と潮風、そして雪の仕業であろう、容赦なく削り落とされた海岸と内陸へと食い込む断崖。何もないどころか、町の中では目にすることができない美しくまた人の手では御し得ない恐ろしい大自然が、私たちの前にあふれる。
 北海道の空の色が、土の香りが、磯のざわめき止まることのない波の音が、すべて輝いている。こんなに自然が近く感じられるのは、大好きなオートバイに乗っているから。

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 2022 北海道 hokkaido  Honda Gold Wing 1800
 

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2022 四国・九州縦断

Honda VTX 1800
             

 感染症に世界が苦しみ始めて3年目の初夏。私たちのオートバイは四国の背骨地帯をつたいながら剣山の麓を西進しました。四国の尾根の最上端から見おろす周囲の山々の美しさ、目前に満ちる太陽の光と空気のゆらめきで感じる息を飲むような三次元の奥行き。山の表層を覆う笹の葉を波打つように揺らしながら、夏が来るぞ夏が来るぞと大声で伝え聞かせるように吹く風。天狗高原のしんと静まった広大なカルスト地帯も、八幡浜港から見上げる広大なみかん畑も、私たちの国にこれほど息をのむ場所があったのかと、私たちは傍らのベンチにただ座り込むばかりでした。
 肌で受ける風、ひざで感じる木々の影の涼しさ、空から降り落ちてくる雨がもたらす手指のかじかみ。当たり前のことがこれほど特別でうれしいものであることに気づくことができるのは、私たちがオートバイでこんなに大きな旅をしているからです。

 

 CanAm Spider のギヤをいれる。いつもの軽く元気なエンジンの回転音と、これでどうだという加速感、さらには停止した時に足をつく必要のない乗り物のみが誇るぶ厚くクッションの効いたシート。旅への期待は膨らむばかり。カーブで傾かないことにはもう慣れた。スノーモービルみたいなUターンもまた楽しい。たとえどんなに重い荷物を積んだって、たとえどんなに急な坂を前のめりに突っ込んでいったって、力強いバックがあればこりゃ愉快。
 病気の蔓延を阻止する規制がなくなったばかりの沖縄。空港の飲食店もまだ半分以上が閉じたまま、道の駅やペンションの周囲も雑草が目立つ。
 しかし確実に、人の動きが眠りから目覚めようという力に溢れている。もう一度、繁栄の石積みを始めようという意欲が感じられる。太陽もいつもより明るい。
 平和と繁栄と人の笑い声、早く世界中に蔓延すればいい。

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 2022 沖縄 Okinawa
CanAm Spyder RT

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2021 北九州・山陰・山陽

    HONDA VT1800    

 早朝。フェリーから降りれば新下関。ねむそうな太陽の光の下、駅に港に人が集まってくる。ラジオ体操の音に合わせ老若男女が波打つ。レトロとモダンが端正な形で取り入れられた港の建物や橋、桟橋に吹く風までもが私たちにとって新しい。
 関門海峡隧道の入り口で求められた通行料110円。思いがけない現金の支払いにとまどった私たちの単車の後ろにできた長い車の列。枚数の多い釣り銭を受け取るのが申し訳ない。ただ1958年製の隧道は、私たち1958年製の人間には何とも親しみ深い。
秋というのに空気が熱い。いつもの冷たい風に備えて着込んできた革ジャンが少し重い。萩の城下町や日御碕、出雲大社が素敵な松の香りで満たされていて、大山に上がるつづら道の美しい紅葉に差し込む日の光が、秋のそれであると知れるのは、ここまでいっしょに連れ添って来たのが、まさにオートバイであるから。

 

 ホンダ ゴールドウイング。6気筒エンジンが実に痛快。一つ一つの気筒が発する排気音はおとなしいのに、6つの排気管が異なった音を出し、スロットルを大きく開けた時に見事なハーモニーを奏でる。そのハーモニーを聞きたくて、またまた右手をひねる。
 ここでは多くのライダーたちとすれ違う。その度に手を上げ二輪を楽しんでいることを確かめ合う。船の出港のように大きく手を振る奴、じゃあなあばよスタイルの奴、かわいい女子高生バイバイの奴。いずれの輩も北海道では単車乗りは手を振る。
 果樹園を営む家族が道端で蒸かす「ゆできび」が甘い。深いしわの豪快な老人がつぎ入れてくれる大きな丼満杯のキノコ汁、熱い、うまい、具の量がはんぱでない。どうやら「お金をかせぐつもり」がなさそう。みんな日常から解放される場所、ここは夏の北海道。楽しく輝く短いこの地の季節に皆が賛辞を贈る。もっと楽しんでおこうじゃありませんか、長く厳しい冬が来る前に。

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 2021 北海道 Hokkaido
      HONDA Gold Wing 1800

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2020 ドバイ・フジャイラ・アルアイン
Harley Davidson Road King
              

 荒涼とした山岳地帯をぬけていくハーレー・ダビッドソン・ロードキング。UAEの山には見事なほど木がない。晴れた空と広く整備された道路がなければ、どこの惑星に降り立ったかと思う様な険しい風景。茂る木々の山々に慣れ親しんだ日本人には、極めて特異な景色が続く。いかに大きなエンジンを積んだ乗り物にまたがっていようと「ここで止まってしまったら」という不安がよぎる。進めど進めど川はない。道路に側溝もない。すべて「雨がふらない」ことに深くつながる。
 アラビア半島には日本車があふれている。むろん他の国の車も走ってはいる。しかし眩しく白いアラブの衣装カンドゥーラを着た自信溢れる男性達は、必ず日本製の磨きこまれた白い大型四輪駆動車で登場する。アラビア半島で最も魅力的なものが、日本製品の「こわれない」ことと痛感する。

 


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2020 Harley Davidson Crossbones

私たちの家の住人に加わったHarley Davidson クロスボーンズ。目の前で伸び縮みするバネむき出しの前輪サスペンション、ひょうきんな動物が頭をあげたようなライト、戦争映画の中で登場する軍用単車の如きサドルシート、曲がりやすいとは決して言えないけれど極めて太くて迫力のあるタイヤ。こいつのレトロな外観には、雰囲気の合うヘルメットやジャンパーが必要です。Vance という人とHines という人が協力して設計した魚の尾っぽみたいなマフラーがくっついていて、エンジンをかけた瞬間から、自己主張を極めた音がします。ボルトをゆるめるにはインチ工具が必要で、旅先の田舎で故障かパンクでもしたら、はたして修理できる工場はあるのでしょうか。ただ、そんな心配はこのオートバイで走り始めた途端にどうでもよくなります。こんなにエキゾチックな内燃機関の乗り物がこの世にあることに万歳。

 訪れるたびにその表情を変え、私たちの期待を裏切ることのない九州。目の前に迫る巨大な廃墟・軍艦島とそれに重なる半世紀も前の人々の声と姿。やがて島原をぬけ辿り着いた息をのむほど美しい海と丘、原城跡。私たちが、その歴史の深さを、静かにゆるやかに味わうには充分すぎるほどの時間でした。 オートバイで通る日本のすべての場所が、にぎわいを心待ちにしていることがわかります。今のような状況のもと、いかに少なくとも、たずね来てくれる訪問者に心をつくすことが、明日の繁栄につながると信じている九州の人たちのがんばりが、心のぬくもりが、伝わってきます。伝染病にどれほど世界中が苦しい状態におとしいれられようと、心おだやかに日々をすごすこの国の人たち。私たちがそれを目の当たりにできるのは、オートバイと共に新しい風を探しているからです。
 2021 北九州 Kyushu north
  HONDA VTX1800    

        


          Japanese English
                     

 八郎潟をゆく。この景色は誇らしい。米を主食とする国に生まれて幸せであると感じる。桜と菜の花の植えられた、かすむほど一直線な道の両側の田園地帯をながめれば、米を得るために尽力してきた日本人たちの多くの努力、夢、期待が伝わってくる。
 やがて迷い込んだような白神山地。単車で行くいかなる山道も、私たちはおおよそ経験をしてきたはずである。なのに恐ろしい。携帯電話の電波マークが消えたままの未舗装、ガードレールのほとんどない道。400kgのオートバイでの二人乗りは、実に厳しい。
 ようやく山道をぬけて恐山。なんと寺の庭から火山性の煙がたちのぼっている。来たことがなかった遠い場所、素敵な山々、波、岩陰。季節を変えてまた来てみたいと思う情景は、いつもオートバイと共に風と空気と光を感じた場所ばかり。

 2020 東北地方 Tohoku region
  HONDA VTX1800    


          Japanese English
                     

 プラハからポーランドへと続く道。
 カレル橋からいくらも走らぬうち、両手に広がる田園地帯。夏まだ半ばというのに、もはや秋の色合いに染められた広大な畑、畑、畑。路面の凹凸が激しさを増し、突然何キロも続く閑散とした工事中。ポツンと動いている重機、談笑しながらゆっくり鉄筋に針金を巻く作業員、赤茶色の錆の浮いた鉄筋、ねじれた工事中テープ。短距離・集中的工事に慣れている日本人達に、延々と緊張を与え続ける波うち穴だらけの路面。
 でも、それがどうしたというのだ?短い夏を楽しむ数多くのオートバイ達が、必ずすれ違いざまにサインを送る様の、心の通わせかたを見るがいい。高速道路の向こう側からも必ず手を振るスクーターを見るがいい。道を譲るオートバイに必ずハザードランプで礼をしていくトラックを見るがいい。古い単車に誇らしげにまたがる陽気な牧師を見るがいい。革のジャケットで2人乗りを楽しむ私達より十年は先輩の夫婦を見るがいい。背中の曲がった老人達が群れをなして楽しむサイクリング、電動アシスト付きの重厚な造りの自転車を見るがいい。
 みんなが人生を楽しんでいる。この国でオートバイで走っていると、勇気を得る。何回も。

 2019 チェコ・ポーランド   
Yamaha VN980      


          Japanese English
                     

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 令和をむかえ、日本中が新しい時代の幕開けに沸いていました。熟成の極みに達した夫婦を乗せたオートバイは、本州の西のはしにたたずむ角島(つのしま)を走っていました。沖縄の島々の景色にも似た雄大な角島大橋に日本の底力を見、水平線から静かに昇る太陽が、人間の力の及ばぬ何か崇高なものの存在を、私たちに強烈に伝えていました。オートバイで駆け抜けるその場所場所の空気のにおいと、木陰をぬける風のつめたさ、海辺に満ちるむせぶような磯のかおり。すべて、私たちがオートバイに乗っているからこそ出会える、自然からの素敵な贈り物でした。
 2019 九州・山陰山陽縦断
  HONDA VTX1800

ヤマハNiken(ナイケン)。
 こいつが普通のオートバイとどう違うかを説明する必要がありますか?おっと、上手に合成写真をつくったねと感心しているのは誰ですか?おや、こんな単車はあり得ないだろと笑っているのはあなたですか?信じられない姿で私達を驚かせ怖がらせているこの近未来型オートバイは、すれ違うライダー達の視線の矢でズタズタに攻撃を受けてしまいます。見てください、映画「トランスフォーマー」から飛び出してきたようなこのオートバイのスタイルを。そして、車輪の数はかぞえましたか?そう、3つです。ただ、この三輪車、ふつうの三輪車とはわけがちがう…車体を傾けながらカーブを切るのです。2本の前輪を支えるフォークは平行にずれ、深くするどいカーブでも、経験したことがないほどの安定感です。タイヤの接地面積が2倍になり、ふんばる2つの前輪の広いスタンスが、信じられないような素敵なフィーリングを作りあげているのです。
 ヤマハ・ナイケン。これはセンセーショナルです。

     
2018 ヤマハ・ナイケン   Yamaha Niken   


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ツェルマットが近づくにつれ深さが鋭くなるカーブ、アップダウン、そしてまたカーブ。二人乗りで通りすぎる山々の、三次元的な奥行き。そしてちりばめられたスイスの美しい家々、窓を飾る花の可愛さ。フルカ、グリムゼル、ズステンと峠ですれ違うのは、短い夏を謳歌しようと走るオートバイたち。どこからわいてきたのか、二人乗りも数知れず、熟年夫婦の2台並走も驚くほどの数。日の出と共に響く様々なエンジンの音に、バイク好きの血が騒ぎ、急き立てられるようにヘルメットをかかえ外に出る。日本の1980年代を彷彿とさせる。私たち二人を、全方位360度の視界が包む。頭上の山の頂が、足下の谷底が、そして私達の後を舞う鳥たちが、息つく暇もなしに流れる。この年齢でこんな素敵な経験をさせてくれる Can-Am Spyder RT、実に楽しい三輪車。
     2018 スイス  Switzerland
CanAm Spyder RT

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砂漠。昼の熱い砂の放つ白い光。日没時の朱色に染まる砂の有機的な紋様。そして夜の恐ろしい闇。広大な砂の中を走る道は舗装されたハイウェイなのに緊張する。遠くを歩く野生のラクダがアラビア半島を主張し、ヘルメットのスピーカーを通して聞くインターコムのいつもの同乗者の声も乾く。一年の半分以上を30度以上で過ごし、夏は50度にも達する国、アラブ首長国連邦(UAE)。この国の人達にとって、外気にさらされてオートバイで走ることなど、馬鹿げた趣味、あえてする気の起こらぬことか。それでもみんな、オートバイに跨る私たちに笑顔で手を振ってくれる。私達も手をふる。駐車場で小さな子供がアラビア語で話しかけてくる。若い人達がいっしょに写真を撮らせてとやってくる。
 それにしても、この国ではハイウェイの周りの景色がなかなか流れない。Honda Gold Wing 1800、こんなにデカいのに小さい。
HONDA Gold Wing 1800
2018 アラブ首長国連邦(UAE) Jabel Hafeet

霧にむせぶ夜明け前のアブダビ。ギラギラと容赦なく照りつける太陽の光だけがこの地の素顔ではないことを、モスクを覆う白い霧が誇らしげに主張していました。目覚めたばかりの少し不機嫌そうなハーレーのエンジン音は、白い空気を切り裂いて進んでいきました。その時。白いベールにつつまれていたモスクが、王宮が、そして高層ビル群が突如現れ始めました。それは舞台の幕開けとともに登場したスター達の様に、颯爽と悠然と。車も人もいない8車線の道路が演出する現実離れした風景。道行く男性の真白い、そして女性の深く黒い妖艶な光沢をもつイスラムの装束。そして、モスクに響く息をのむような祈りの声。オートバイと共に経験するこの瞬間に、心から感謝せずにはいられません。
     2018 アラブ首長国連邦 Abu-Dhabi

      Harley Davidson Softail

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シャワーの如き激しい雨かと思えば、夏の爽快な青空、そしてまた雨。天気の変化を楽しむに英国は最適。革ジャンの下にダウンジャケットを着込み、真冬に近い装備で駆け抜けるウェールズの丘陵の秋のような景色。そんな冬支度の日本人達の前で、元気に海水浴を楽しむ子供達。主張が控えめになったハーレーの新型ミルウォーキー8エンジンの排気音と出力は、ジェントルな英国の風景に極めてよく馴染んでいました。
 この瞬間を、この場所で、この空気の中で感じることができる幸せは、共にやって来たものがオートバイであったからこそ、深く胸に響きわたるのでした。

     
2017 イギリス・ウェールズ
      Harley Davidson Road King

Can-am スパイダー F3 Limited。
 この蜘蛛は、止まっても足で支える必要はありません。下り坂、きびしく方向を変えながらフルブレーキしてもこけません。低くかまえたスタイルは素敵で、非日常を100%演出するのにもってこいの乗り物、パワーも抜群です。ただ、カーブを曲がる時、傾きません。三輪車だから。
 前輪が2つ左右に張り出したこのF1マシンのような形の乗り物、バックができます。だから駐車場での後退は、笑顔、笑顔、注目の的。小さな子は手を振り、丁寧に「写真を撮らせて下さい」とやって来た勇気ある小学生に「どうぞ運転席に座って」。どんなに荷物を積んでもへっちゃら。おもしろい、やめられない。ただ、傾きません。

     2017 沖縄
CanAm Spyder F3

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Harley Davidson Softaill

砂漠の中の高速道路を進む、ハーレー・ダビッドソン SOFTAIL。
 太陽をさえぎる木々も岩陰もない文字通り砂漠の中を、熱い空気を吸っては吐き、人が息をするように地面を駆って走る私達のオートバイの排気音は、機械とは呼べない命を宿した生物の呼吸のようでした。植物とは無縁の岩と砂ばかりの恐ろしい表情の山々、砂ぼこりけむる地平線、赤い夕陽に息をのむような妖しい陰影を映しだす見渡す限りの砂。街に響くイスラムの祈りの声は、ドバイの街角を行く私達の髄に届くほど深く響き、男性の白い、女性の艶やかな黒い衣装が、アラビア半島の文化を誇らしげに伝えていました。
 オートバイで行くイスラムの町は、長い時間をかけて磨きこまれた宗教の重みと、それを心の拠りどころとして生きる人々の優しさにあふれていました。

          
2017 アラブ首長国連邦

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冷たい朝の透明な空気に立ちのぼる別府の温泉蒸気は、バイク乗りたちにとって旅の開始の狼煙(のろし)でした。 眼前にする巌流島が、壇ノ浦が、平戸の商館が、時の流れと歴史の深みを伝え、人で溢れる博多どんたくの踊り手たちが、九州の人たちの勢いを知らしめ、雄大に横たわる阿蘇の涅槃像が、和の心のありかをさとしているようでした。足場と幕に覆われた熊本城の姿とその周りに集った多くの支援者達に、日本の底力を感じる瞬間でした。
 オートバイたちを迎える初夏の九州は、遠い昔に外国との貿易で栄えた町の端正なたたずまいと、それをとりまく自然の美しさ、さらには穏やかで優しい人達で魅力的に演出されていました。

 
2017 九州HONDA VTX1800

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40年も前、親友と小さな渡し船にオートバイをのせてたどりついた瀬戸内の島々は、素敵なつり橋でつなぎとめられていました。しまなみ海道をいく人達は、単車も車も自転車も、秋のぬけるような青空を背に輝いていました。自転車を連ねて笑顔で走る外国人の家族に日本人として誇りを感じる瞬間でした。耕三寺(こうさんじ)の色彩と、大山祇(おおやまづみ)神社の押し黙ったような鎧(よろい)、白滝山の五百羅漢、小豆島・寒霞渓(かんかけい)の紅葉。限りなく価値が高く、鮮やかで印象的な場所に私たちを連れてきたものは、やはりオートバイでした。
   2017 しまなみ海道・小豆島
   
HONDA VTX1800

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 大きな旅を覚悟しつつオートバイで走り始めた初夏の日、真新しい自動車道は、またたく間に私たちを天橋立に立たせていました。地元の方の親切な勧めでオートバイと共に上った成相寺(なりあいじ)の、自然の静寂に囲まれた人のいない高台から見る砂州に心奪われ、持参したポットの熱々のコーヒーがその景観の価値を無制限に高めていました。この光溢れる光景を、香りを、そして風を感じさせてくれる場所に私たちを導いてくれるもの、それがオートバイでした。
   2017天橋立・大阪心斎橋

   HONDA VTX1800

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 上海の町の中を埋め尽くす電動バイク。朝の出勤も主婦のお買い物も、巨大な荷物を乗せるリアカーを引くのも電動バイク。数十年走っていたであろうと想像できる人力車までがモーターで走る。ほとんど無音で走るこの乗り物が、徒歩の私たちの背後から近づいてくると、得体の知れぬ一種の恐怖を覚える。大きなピストンが往復して中でガソリンを爆発させて走るオートバイが勇ましくもあり、騒々しくもあり、また古典的でコミカルな乗り物にも映る。「走る時に音がする乗り物」。もしかすると、間もなくそんなものがこの世から消え去ってしまうのかもしれない。蒸気機関車が電車にかわった時も、きっとこんな淋しい思いをした人がいたに違いない。
   2017 中国・上海


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